日本の公共事業の地質リスクマネジメントは大きな転換期を迎えています。
「『最小限』の地質調査-標準的な設計-施工時の設計変更」という旧来の地質への対応方法は、多くの建設事業実施が求められていた「右肩上り」の時代には有効でした。ただし、施工時の設計変更による公共工事費の大幅な増加は、決して好ましいことではありません。国民や納税者が、「建設業界は、その機に乗じて過剰な利益を得ているのではないか」、との疑念を抱くようになったからです。
この疑念を払しょくするための方策を様々な視点から多くの方々と共に、検討を続けてまいりました。その結果、地質リスクを「地質に係わる事業リスクと定義し、具体的には事業コスト損失そのものとその要因の不確実性をさす」と捉えた上で、(1) 地質調査を含む地質リスクマネジメントの価値の計量化、(2) 全てのリスク要因を抽出し、適宜それらの回避・低減などを図っていく新しいリスクマネジメントプロセス手法の構築・実施、(3) 国民・納税者への説明責任を果たすために(1)、(2)を発注者の側に立って実施・支援する地質技術顧問という職能の確立、が必要ではないかとの仮説を得るに至りました。
今回、この新しい地質リスクマネジメントの仮説の検証・確立・普及を目指して、地質リスク学会を設立いたしました。
地質リスクのマネジメントとは、自然、並びに、先人、現在地元に住む人々、そして未来の子供たちの「くらしの地層」の上に、構想、調査、計画、設計、施工、維持管理、廃棄という「事業執行の地層」を丁寧に折り重ねていく過程と解釈できるのではないでしょうか。地質リスク学では、事業執行者はもちろん、自然、先人、地元の人々や未来の子どもたちの小さな声をお互いに聴き合い、感じ合い、責任を創り合い、活かし合うことを大切にしていきたいと考えています。
海外の実務者に、地質リスクマネジメントの価値計量化の事例調査など、これまでの調査研究成果を説明する度に、羨望と期待のまなざしを感じます。私たちは、新しい地質リスクマネジメントの確立は産官学が密接に連携できる日本だからこそ可能であること、かつ、その成果は日本のみならず海外諸国でも大きな貢献を果たしうることを確信しています。
私たちは、皆さまとともに地質リスクマネジメントの新しい地平線を切り拓いていきたいと思います。どうか、皆さまの温かいご指導・ご協力・ご参画を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
ありがとうございました。
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学会設立日 平成22年1月20日
渡邊 法美